2025年1月26日更新
アラスカ・フェアバンクス発感動体験
〜 2024年大晦日から2025年元旦にかけてのオーロラ 〜
2024年12月31日夕刻から、2025年1月1日朝にかけて出現したオーロラは
20年以上アラスカで暮らす私にとってもまれに見る特別なものでした。
この夜、ツアーに参加された方々は、稀有な機会に立ち会ったことになります。
わずかではありますが、この一夜の記録を、ここに公開させていただこうと思います。
それは、大晦日の夜8時過ぎのこと。
いつになく騒がしい星々の気配を感じ、ぐるりと空を見上げました。
目を凝らすと西側の木立の上で
深い紅色のオーロラが、ぼおっ、と怪しげに漂っています。
暗赤色
専門書に記されていた色の名を思い出します。
紅色が肉眼で見える。
それ自体、極めて珍しいことですが
デジタルフォトでは
肉眼では感知できない鮮やかな色が再現されるケースがあります。
今回ももしや ―――
果たして、予想は的中しました。
紅、赤、赤紫、青紫、オレンジ、黄色、そして緑。
写真には豊かなオーロラの色が記録されていたのです。
ところで、写真ではいかにも派手な印象のオーロラですが
実はこれらのオーロラ
活発に明動するタイプではありませんし
むしろ一見すると地味な印象ですらあります。
控えめではあるけれど、そこはかとなく熱気を帯びたオーラを放っている
そういう印象を受けるオーロラこそ
時に驚くほど写真映えすることを体験的に学んでいましたが
この時のオーロラがまさにそれでした。
一年を締めくくる夜
これから起こるかもしれない更なる出来事に
おのずと期待が膨らみます。
いよいよ新年を迎える少し前からだったでしょうか
南寄りの高空でかすみのようなオーロラが弧を描き始めたことに気が付きました。
「南寄りのオーロラは、トンデモナイことに発展するケースがあります。
この先、南の空を注視していてください。」
確約はできませんが、と付け加えてお客さんたちに伝えます。
そう、南寄りの“ある種の”オーロラこそ
想像をはるかに超え圧倒的な姿に化けることがあるのです。
ただし、その幕開けからクライマックスに至るまでの時間は極めて短いため
予兆にいち早く気が付くことが、見逃さないための重要なポイントです。
オーロラを観察することに特化して建物と森を造り込んでおり
すべての方角の視界が良好
周囲に目立った人工光がまずない私たちのロケーションは
南に出現するオーロラを観察する際にも絶好の環境を整えています。
ほどなくして迎えた新年を皆で祝いました。
その余韻も冷めやらぬ午前12時半過ぎ
いよいよその時がやってきました。
つい今しがたまでかすみがかかっていたような
――― それ自体も緑色のオーロラなのですが ―――
真南の空が急に騒々しくなり始めたのです。
来る!
すぐさま直感しました。
「皆さん、これから来ます!」
突如、幾筋もの閃光がまばゆいばかりにゆらぎきらめき
そびえ立つ光の壁となって眼前に立ちはだかります。
オーロラ大爆発が起きたのは直後のことでした。
乱舞する様にただただ息を飲むことしばし。
誰もが興奮に包まれている様子が
暗闇の中からでも伝わってくるようでした。
「教えてくれたので待ち構えることができました。スマホでもすごいのが撮れてカンゲキです!」
誰かが嬉しそうに画面を見せてくれました。
この一幕を見届け
わたしは仮眠に入りました。
―――――
そして迎えた朝7時過ぎ。
じわじわふつふつと新たな波が迫ってきました
南の空が再び燃え始め
肉眼でもはっきりと紅色が確認できるまでに。
光の籠の中に幽閉されたような錯覚さえ覚える大きなオーロラです。
そのオーロラは次第に勢いを増すと
私たちの期待に応えるかのように大爆発に至りました。
朝7時半過ぎにもなってこの現象がこるのも大変珍しいことです。
緑、赤、オレンジ、青紫、赤紫などの蛍光塗料が噴き出すのを
スローモーションで見るようなオーロラが
ゆっくりと姿かたちを変えながら輝き続けていました。
この活動が落ち着いたところで
ツアーは終了となりました。
―――――
実は、それからもう一度、オーロラはやってきたのです。
8時を回ってしばらく経った頃でした。
日の出までは3時間足らず。
東に連なる山の端がわずかに明るくなり始めていました。
そのとき
波立つように真南の方角で緑色が揺れたかと思うと
昇る炎のごとく急激に森の向こうがゆらゆらと染まったのです。
それはまたしても、肉眼ではっきりと見て取れる紅い色でした。
天空を今にも突き破る巨大柱のようなオーロラと
朝焼けが織り成すコントラストは
特別な一夜の終幕として、出来過ぎと言ってもよいくらいの光景でした。
明けゆく蒼空に溶け込んでオーロラが去っていたことを見届けた時には
午前9時を回っていました。
ふと思い立ち
携帯で北海道、陸別のオーロラ中継のサイトを覗くと
彼の地で赤いオーロラが出現したことを伝えていました。
新年早々
もしかしたら
アラスカと日本で、別々の方角から同じオーロラを見ていたのかもしれない。
そう思うと、嬉しさが込み上げてきました。
※掲載写真は時系列順です。
Text and Photos : Makiei Kawauchi (Nature Image)
©2025 Makiei Kawauchi / Nature Image
河内牧栄(Makiei
Kawauchi)紹介 1966年岐阜県生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。在学時はワンダーフォーゲル部に所属し、北海道大雪山の縦走などを経験。 アラスカ北極圏を縦断するダルトンハイウェイを管轄するBLM、国立北極圏野生生物保護区におけるホッキョクグマ観察(コロナ禍以降中止中)など 日本人としてアラスカ北極圏をフィールドに活躍するただ一人のアラスカ州公認ガイド。 2011年1月、中日新聞系列でスタートしたウィークリーコラム『アラスカに暮らす』は、二度の延長を数え、2013年の3月まで、 2年3ヶ月にも及ぶ人気シリーズに。 2015年 写真集『 SKYSCAPE PHOTOBOOKオーロラ 』刊行(誠文堂新光社) 2015年『多十郎、儀兵衛、津太夫、左平、善六の五人が見た北極光〜ラングスドルフのオーロラ画より〜』(石巻若宮丸漂流民の会 会報誌上で発表) 2016年 エッセイ集『
愉快痛快アラスカ暮らし 』刊行(誠文堂新光社)※電子版もあります。 2021年『石巻学6号 海を渡った人々』に掲載された「極北アラスカ フランク安田 残照」が好評を得る。イラストも自ら担当した。(こぶし書房刊) 2021年 かつて制作に参加した連作アニメ作品『 ザ・コクピット 』(松本零士原作)がアマゾンプライムビデオでストリーミング開始。高視聴回数を得る。 ※ロシアのウクライナ侵攻以降、本作は、戦争と平和について考えさせられる作品として、日本のみならず世界中で再評価されています。 2022年 プラネタリウムドラマ『 流れ星を待つ夜に 』でオーロラ&アラスカパートの動画撮影を担当。 ※監督;井内雅倫、主演;濱田龍臣&駒井蓮、主題歌;羊文学、劇中画;吉田誠治
/ コニカミノルタ・プラネタリウム、満天、天空、プラネタリアにて上映。 2022年『 アリューシャン列島の自然と歴史 ADAK・エイダック島
〜 アラスカ最果ての町から 〜 』(石巻若宮丸漂流民の会 会報誌上で発表)
(項目;ツンドラに咲く花、火山列島アリューシャン、風の島エイダック、使えない電話、人影のない町、大戦と冷戦を越えて、アリュート盛衰、ウナンガン追憶) 2022年 TOKYO−FM『 コスモ アースコンシャスアクト 』に5日連続出演。(9/25〜29放送分) 2024年 極北アラスカをテーマにしたアナログLPアルバム『
A Lot of Nothing 』(仮タイトル)の自主制作開始。(2026年完成予定) ※学生時代、出版社時代の10年を共に過ごしてきた友をサウンドデザイナーに迎え、過去10年ほどで作りためてきた8曲を収録予定のプライベート盤。 2025年 去年秋に始めた、オーロラツアーで使用しているオーロラロッジの増築工事について、第一次の工程がまもなく完了予定。 北極圏のかかわりは、1997年の北極圏ブルックス山脈を流れるノアタック川のカヤック行を皮切りに、バロー沖氷上での ホッキョククジラの解体作業や獣皮舟ウミアック制作への参加など、四半世紀に及ぶ。 |
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